【調査報告】AMR Policy Update #1:AMR対策、次の10年、次の100年
薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resisntace)は現代社会が直面する大きな社会課題の1つです。AMRとは、病原体が抗菌薬に対して耐性を持つことで、抗菌薬が効きづらくなる現象です。2021年には世界で約114万人がAMRが原因で命を落とし、関連死を含めるとその数は約471万人に上ります。世界保健機関(WHO: World Health Organization)もAMRをグローバルヘルス課題のトップ10として挙げており、2018年から2023年にかけて、大腸菌等の一部病原菌で主要な抗菌薬に対する耐性率が世界平均で40%を超えています。東南アジア地域及び東地中海地域では3件に1件の感染症が 薬剤耐性菌によるものと推定されており、危機感が一層高まっています。
日本医療政策機構(HGPI)は2016年からAMRを重要な社会課題として位置づけ、政策提言活動を展開してきました。2018年にはAMRアライアンス・ジャパンを設立し、AMRに関して産官学民による政策対話プラットフォームを世界に先駆けて構築しています。現在に至るまで、国内外の多様な関係者と連携しながら、幅広い分野の知見を基盤とした政策議論の場を形成し、関連政策の推進に取り組んでいます。
この10年でAMR政策は着実に進展しました。2026年にはWHO等による薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランの更新も予定されています。その一方で、国際情勢や社会構造はダイナミックに変化し、AMR政策をはじめとする感染症政策を取り巻く環境や関係者も多様化してきました。特にAMRは、医学・人文科学・社会科学、創薬・臨床・開発、医薬品・検査、研究・政策、医療・福祉・介護、国際社会・国・自治体・コミュニティ、ヒト・動物・環境等、様々な視点が絶えず交差する領域です。だからこそ単一の最適解を描くことはますます難しくなり、多様な知見を持ち寄り、暫定解を積み重ねながら粘り強く前進することが求められています。また、暫定解を積み重ねるこの過程でこそ、関係者間の合意形成や納得感も極めて重要です。
AMR Policy Updateでは、こうした複雑な現実のなかでAMR関連政策の最新動向を共有するとともに、ときには過去の歩みや教訓も丁寧に振り返りながら、分野や立場を超えて国内外の知見や経験を繋いでいく新たな情報共有と議論の場になることを目指します。
1928年にアレクサンダー・フレミングが世界初の抗菌薬であるペニシリンを発見してから、間もなく100年を迎えます。1945年、フレミングは既に自身のノーベル賞受賞講演でAMRのリスクをいち早く指摘していました。これまで積み重ねてきた100年間の叡智と実践を引き継ぎながら、次の10年、そして次の100年に向けて、国内外の皆様と共に、より良いAMR政策の在り方を探っていきたいと思います。
